『キノの旅』  第一話「人を殺すことができる国」

 人間「キノ」と、言葉を話す二輪車エルメス」との旅を描いた作品。
 作者・時雨沢恵一による電撃文庫ライトノベル・『キノの旅』、そのアニメーションシリーズ第二弾です。

 

 ところで、実はヒダマルは、『キノの旅』の大ファンです。超ファンです。
 小説は全巻平均10回ずつは読んでます。1巻なんか、高校時代に読みすぎて内容を一言一句覚えてしまい、逆に面白くなくなってしまうという事象を起こしてしまったほどです。
 そのため、キノの再アニメ化の知らせを耳にした時は、超喜びました。稀勢の里横綱昇進よりも喜びました。
 愛の強い作品なので、ファンの一人としてじっくりキッチリ、存分に、肩までつかって、楽しませていただこうと思っています。


 プロローグ&エピローグは「森の中で」。
 1巻収録の掌編ですね。小説では、すべての巻の冒頭とラストに掌編を置いているのが『キノの旅』の一つの特徴です。掌編と言いつつ、たまに超長い話だったりするんですが。7巻とか8巻とか10巻とか。

 ややこしいのですが、プロローグが「森の中で・b」、エピローグが「森の中で・a」となっており、時系列的にはエピローグの方が先なのです。「エピローグまで読んで、初めてプロローグの意味が分かる」という構成にしてあるのですね。アニメでも、その構成を踏襲しているようです。


 本編は「人を殺すことができる国」。原作5巻収録の話ですね。
 キノ世界の理不尽さや、それぞれの国の特徴的な制度を示す話として、第1話に選ばれたのでしょう。
 しかしまあ、のっけから難癖付けるのもなんですが、原作の描写の再現力をもっと高めてほしかったっ……!!
 小説での「空に雲はない」「通行の少なさを示すように、所々を草が覆っている」という、キノの読み応えの重要な一部分である秀逸な自然描写を、もうちょっと再現できなかったものか……。
 いや、分かってます。細かすぎるのは分かってます。「アニメはアニメとして楽しむべき」というのも、理解しています。けれど、愛が強すぎてっ……。

 まあ、「小さな湖」「白い城壁」ですとか、他の要素は抽出している部分も多くあるので、スタッフさんが『キノ』を読み込んでいることは伝わってきます。小説とアニメでは表現方法が異なるのですから、そっくりそのまま移植するだけでは、むしろ感動を目減りさせてしまうだけでしょう。
 ヒダマルは、スタッフさんを信じて、『キノ』を信じて、見ます!
 見続けますっ!


 閑話休題。と言うか、やっと本題。
 旅を続けるキノとエルメスは、次の国へ向かっている途中、一人の男に出会います。物腰の軽い男が言うには、この先にある国(キノも向かっている国)は、なんとビックリ「人を殺してもいい国」だというのです。

 男「法律で殺人が禁止されていないんだ。何故か盗みの方はダメだけれどな

 そして、男はそんな国への移住希望者だったのだ。故郷の国では社会に適応できなかったのでしょう。
 興奮気味な男は更に語ります。その国には、「あのレーゲルさん」がいるのだと! 世界の常識みたいに語る男ですが、キノもエルメスもキョトン。

男「南にある大きな国で、テロリスト兼強盗団の党首として有名な、連続殺人者なんだ。一度捕まっちまったが、首吊り直前に脱獄した強者よ

 レーゲルさんへの熱い思いは伝わったものの、キノは興味なさげに聞き流すのみ。男の「荷物を持ってくれ」という図々しいお願いも突っぱねて、さっさとエルメスで出発します。
 そして、そんなキノの後ろ姿を、剣呑な眼差しで見送る男なのでした。うん、なんか企んでますよ彼。これ伏線ですよ。


「人を殺すことができる国」に到着したキノとエルメス
 入国審査官は、「この国では、殺人が禁止されていない」「どんな理由でどんな人を殺しても、罪にはならない」旨を繰り返し確認してきます。けれど、ここで入国を断らないのがキノです。リスクを全て受け入れて、城壁をくぐるのです。

  

 入国してみると、意外や意外、まったく普通な国だった。というか、むしろ平和だ。
 期待していたわけではないものの、拍子抜けするキノとエルメス
 町の人々は、「人を殺すため」の武装は用意しているものの、とにかく平凡で豊かな暮らしを送っています。「隙あらば殺してやるぜ!!」みたいな殺伐とした雰囲気の国民は、一人として見当たりません。
 これはちょと、前評判とかなり違いますね。


 入国して2日目、この国の名物料理に挑戦するキノ。
 何故「挑戦」なのかと言うと、この料理、「クレープとクリームの重ね合わせが大きな皿いっぱいに載ったもの」で、とてつもない大きさをしているのです。まるで山です。

 「何事も挑戦だ」と言って食べ始めたキノは、あ、もう食べ終わった。キノの大食いっぷりは、『学園キノ』でも受け継がれています。

 チャレンジを終えたキノに、町のご老人グループが声をかけてきました。ご婦人が3人に、杖をついた髭のご老人が1人。
 趣味のダンスの帰りであること、毎週2回通っていること、この年になると身体を動かすことが大事であることなど、聞いてもないことを次々語ってくるご婦人のマシンガントークにキノちょっと引いてます。
 そんな平和そうなご婦人のバッグの中にも、ハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)がチラリ。

 そして、グループの一人・杖とお髭の老人から、明日の午前、壁の外の話でも聞かせてくれないかとお誘いを受けるキノ。約束を交わして、この日を終えます。

 

 翌日。つまり、キノが入国してから3日目。
 穏やかな物腰のご老人と、仲良くお茶するキノ。名物の怪物クレープも、2人がかりなら楽勝です。
 キノの旅の様子を聞く髭のご老人、キノに対して、この国への移住を提案します。曰く「ここは、アナタみたいな人には向いていると思うんだけれど」。

エルメス「どういう人?」
髭の老人「人を殺すことができる人さ

 ご老人、目が据わっています。しばしの静寂が流れます。怖い。


 キノは定住の件を断り、老人にお礼を言って、別れます。今日は入国して3日目ですから、出国する予定なのです。「一つの国には三日間」が、キノの旅のルールなのですよ。

 と、そこに乱入してきたのは、一昨日のチャラい男。

  既にこの国の住人になっていると宣言する男、なにやら吠えてますが、要約すると「キノの旅荷物を、殺して奪う」つもりのようです。腰には当然、ハンド・パースエイダーが。

 男の意図を知った瞬間、黙って成行を見ていた往来の住人たちが、一斉に動き出します。
 屋内に入る者。物陰に隠れる者。誰もが、騒ぎ立てることもなく、冷静に歩いて、姿を隠していきます。

 その姿に、何かを感じ取ったキノ。
 抵抗はせずに、エルメスの陰に隠れて様子を見ます。キノが本気を出せば一瞬で撃ち殺せる相手なのですが。
 キノの対応を腰抜け呼ばわりしつつ、パースエイダーを抜き、引き金に指を掛ける男。


 その時、


 飛来したボウガンの矢が、男の右腕に突き刺さる。

 
 痛みに喚く男。「誰だっ!」と犯人を探すと、建物の窓で武器を構えていたのは、「普通のおばちゃん」だった。
 異様な光景に怯む男の周辺に、いつの間にか、住民が迫っています。

 彼らの手には、包丁、拳銃、斧、ライフル、ボウガン――

「人を殺すための武器」を構えて、男の動きを牽制します。足にもボウガンの矢を受け、状況に付いていけずに混乱する男に、渋い声がかかりました。それは、あの「髭の老人」。

 「駄目なんだ……。いけない事なんだよ。だから止めたんだ」
「ここでは、この国ではね……、人を殺すという行為は、許されていないんだよ」

 男は更に混乱します。
「法的に殺人が禁止されていない国」だからこそ、この国を目指し、こうして住人になったのですから。
 戸惑う男に、老人は更に言葉を重ねます。

 

「この国ではね」

 

「“人を殺した者”“人を殺そうとした者”“人を殺そうとする者”は、みんなに殺されてしまうことになっている」

 

「つまり」


「“禁止されていない”ということは、“許されている”ということではないんだよ」


 想定外の言葉を連ねる老人に、「……ふざけんなよ。テメェ何様のつもりだ!」と凄む男。
 問われた老人は、名前を教えるのです。

 「私かい? 様というほどの人間ではないよ」
「ただの一市民、」

レーゲルという名の老人さ


 老人が杖の手元をひねり、抜くと、現れたのは剣。
 男の胸を一突きにして、髭の老人・レーゲルさんは、「人を殺した」のだった。

 

 

 出国したキノとエルメスが道を走っていると、再び一人の男に出会います。

  なんでも彼の国の治安は非常に悪く、もう人を殺すなんてまっぴらであり、どこか平和な国を探しているとのこと。
「この先にある国は平和で紳士的だ」という噂を知って向かっているものの、キノにその正否を聞きたいというのです。

「そういうことなら、あの国はきっと気に入る」と太鼓判を押すキノ。男も、それを聞いて安堵の表情です。
 しかし、出発しようとするキノを、男が呼び止めます。まだ何か聞いておきたいそぶりですが、

 男「いや……、いい。あまりにも変な話だ。自分の目で、確かめてみる」

 と言うに留まり、キノと別れるのでした。


 白い城壁を振り返り、男がつぶやきます。

「果たして本当なのか……」

 

「あの国では、クレープを山にして出すって」

 

 

禁止されていないという事は、許されているという事ではない
「あのレーゲルさん」の、見事な名言でした。

 殺された男は、レーゲルさんについて「伝説の殺人鬼」と聞いてこの国へやってきたわけですが、実際の所、どんな人生を送って、どんな経緯で「人を殺すことができる国」へ流れ着いたのか、気になりますね。
 案外、この「殺人を禁止しない」という法律も、レーゲルさんが作ったのかもしれません。
 良いキャラしてますし、師匠のパートでまた出たりしませんかね、レーゲルさん。この名言も、実は師匠の教えだったりして。やんちゃしてた若い頃のレーゲルさんも、それで心を入れ替えたとか?
 いやぁ、妄想が止まらないヒダマルです。


 次回、「コロシアム」。
 うむ、キノの再アニメ化にあたって、2話目と言ったらコレでしょうね。やっぱり外せませんよね。「出来過ぎ侍」の初登場回ですから(それは「学園キノ」だ)。