『キノの旅』  第四話「船の国」


 黎明期からのキノファンには「え、もうっ!?」という感のある采配です。「サファテが4回から登板してきた感じ」と例えると分かりやすいでしょうか。
 というのも、原作1巻収録の「コロシアム」で出会ったキノとシズですが、「船の国」で再会するのは8巻になってからなのですよ。
 リアルタイムで追っていたファンとしては、8巻での再会に「やっとこの時が来たかーっ!!」という感慨を持ったものですが、アニメでは新キャラの登場を優先させてのこの配置なのでしょう。

 

 でも、ラファのストーリーがないのはちょっと寂しい気もするヒダマルです。
 いやいや待て、ラファが登場する「祝福のつもり」は過去編だから、ティーが一緒にいても出来ないことはないはずだ。目を凝らすのだ、光はある。

 ちなみに、シズ様の「過去編」の扱いはキノや師匠のそれと大きく違っており、6巻収録「祝福のつもり」の1話しか存在しません(師匠は過去編というか、未来偏というか)。
 したがって、国を出た後の彼がどこでどうやって剣術を習得したのか、相棒である陸との出会いなど語られていない部分は非常に多く、意外と謎の人物なのですよね。兄弟の存在も囁かれていますし。
 判明している事といえば、「元・王子様」にして「キノをつけ回すロリコンストーカー」であることくらいですから(原作5巻の「おとがそ」より)。


 例によって前置きが超長くなりましたが、「船の国」です。

 海を眺めるシズ&陸。視線の先には、「船の国」。世にも珍しい、「海上を移動しつつ、交易をしている国」ですね。陸も言っていましたが、構造としては「船」というよりも「浮島」と呼んだ方が正しいです。

 この国の「指導者一族」に謁見するシズ。みんな黒ずくめですね。FF9のビビみたいな見た目で、誰も肌を出しておりません。そして、支配者にしてはブクブク太っている不摂生な人間も見当たりませんが、ハイこれ伏線です。

「西の大陸」まで15日ほどの滞在期間で、「民衆の監視と治安維持」か「民衆に交じっての肉体労働」か選んで働かなければならないシズですが、後者を選びます。

シズ「私のような下賤の者には、その方が似合っております」

 彼は元王子様なんですが、冗談で言ってないのがシズのシズたる所以ですね。


 指導者が住んでいる国中心部の塔ではなく、下層の居住区へ降りるシズ。民衆の長老に質素なもてなしを受けます。
 7、80くらいのお爺さんに見えるこの老人、実は55歳だそうですよ。レーゲルさんより若いっ!

 長老に「指導者から遣わされた案内人」を紹介され、現れ出たのは……、女の子。白髪に仏頂面の、どこか憎らしげな視線を受けている「ティファナ」でした。愛称は「ティー」。
 非常に無口な少女ですが、どうして無口な人間を案内人に抜擢したのでしょう? 指導者連中、何を考えてるのでしょうか? ハイ、ここも伏線ですね。


 翌日から、ティーの案内で「船の国」の住人の暮らしを見学させてもらうシズ。仕事があれば手伝うつもり満々ですが、一向に見つかりません。どうも疎外感みたいな空気を感じます。陸は子どもに大人気ですが。
 というか、住人はシズには気さくに挨拶してくるので、疎外されているのは案内人の無口な少女、「ティー」のようです。

 それにしても喋りませんねこの子。『ゆるゆり』の生徒会長くらい無口です。いや会長は一応喋ってはいるのか。

 首の動きで「肯定」「否定」くらいは伝わるのが救いです。

 

 漫然とした観光生活を送るシズ。5日目、「大陸からの旅人がもう一人入国した」という噂を聞きます。指導者連中の仕事を手伝うことにしたそうなので、まぁ会うことはないでしょうが。

「船の国」の、突然の揺れと軋むような異音に動揺するシズ。ティーに、「この国の構造が分かる所はないかな」と問い、案内を受けます。
 途中で浸水している個所を発見し、「こんな場所がもし多かったら……」と不安げに呟くシズ。やがて「船の国」全土が記された地図(館内図?)のある部屋へ辿り着き、ティーの記憶を頼りに、先ほどのような「浸水個所」に印をつけていきます。
 結果、その数、143個所。

 どうやらこの国は、過去に設計されたシステムをそのまま使用し続けており、メンテナンスを行う人間も、その技術も、もはや存在していないようです。
 このままでは、船の国がやがて沈むことは、間違いないでしょう。

 確実に迫るタイムリミットに、国民の命を案じたシズは、とりあえずは長老にジャブを打ちます。損傷個所のこと、食糧事情のことなどをやんわりと問い質しますが、彼は「塔の一族」に任せっきりな様子。

 説得するには、「塔の一族」と話をつけるしかないと決意したシズは、刀を手に塔へ向かいます。ティーは当然のようについてきます。シズ様根気負け。


 塔の前に立ち、指導者と話すシズでしたが、この国の指導者は住民のことを真摯に考える気はさらさらないようです。こうなれば、「説得」の時間です。

 戦闘態勢に入ったシズの前にはしかし、パースエイダー(注・銃器のこと)を構えた黒服が現れました。陸が、ティーを押して安全な場所へ避難させます。


 黒服VSシズ!!

 コロシアム準優勝者の実力を見せてやれっ!!


 ……と思ったら、あっけなく決着がつきました。銃口を向けられたシズは固まります。この身のこなし、八角形のバレルを持つハンド・パースエイダー使い……、まさか、この黒服はっ。

 そう、「キノ」登場です。
 そういえばこれ、『キノの旅』でした。

 銃を下げ、降伏を呼びかけるキノ。コロシアムの時と立場が逆ですね。しかしシズとしてもこのまま引き下がるわけには、ってちょっと待ってください、「塔の一族」が、戦闘を中断したキノの行動を勘違いしました。
 キノとシズは初めからグルだったのだと勝手に結論付け、国の進路を変更してしまったようです。このままでは、2人は死ぬまで船の国で生きることにっ。


 せっかく勝ったのに、シズと組んで「塔の一族」を倒していくキノ。もうこうなれば力ずくで操舵室を乗っ取って大陸へ寄せるしか方法はありませんからね。ホント、せっかく勝ったのに。

キノ「あなたは……、えっと、お名前なんでしたっけ」
シズ「シズだよ……」
キノ「ああ、そうでした。――君は、陸君でしたね」

 ……戦いは終わっても、キノの心理攻撃(?)は終わりません。


 ついに、指導者のトップを追い詰めたキノとシズ。
 シズの信念と覚悟を感じた指導者は、「いいだろう。――次はお前だ。――そして一緒に生きろ」と謎の言葉を残し、椅子から崩れ落ちました。
 そう、この国の「指導者」にして「塔の一族」は、機械だったのです。


 無事、「船の国」を浜辺に上げて、新たな大陸に上陸するキノとシズ。民衆も、恐る恐る、生まれて初めての大地へと足を踏み出します。
 困惑する住人に、事の顛末を説明するシズ。これからは、塔の一族の支配下の元に生きる必要はなく、大地の上で自由に暮らしていけること。やがて沈むあの国に戻れば、未来はないこと。
 しかし、今まで生きてきた環境への郷愁と、長老の根拠のない言葉によって、彼らは全員が「船の国」の中へ戻ってしまった。

 浜辺に刻まれた足跡を見ながら、己の無力をかみしめるシズ。まだ傍らに居たティーにも、「私は失敗した。君も国に戻るといいよ」と声をかけます。

 相変わらず、返事はありません。

「どうした? 早く戻らないと、置いて行かれてしま


 うよ」、と言おうとし瞬間、ティーが握ったナイフが、シズの腹部を貫きました。


「わたしにもどるところなんてない」


 ティーの初台詞ですが、それどころではありません。シズの腹部からの出血は止まりません。陸とキノがそれぞれ対応しようとしますが、「待ってくれ!」というシズの一声に動きを止めます。

 そこに、

「その子がティファナだね? なるほどー」

 という能天気な声が。はい、エルメスですね。この台詞はコイツしかいませんね。
 倉庫番の黒服に、この国の歴史と、彼女についての話を聞いていたというエルメスが、状況を説明します。


「ティファナ」とは、船の名前だった。
 600年前、放棄されて無人だったあの国に流れついた、漂流船の名前。その船には、幼い数百人の子どもだけ乗っていた。その子孫が、現在の住民である。
 そして「ティファナ号」を制御していた機械、人工知能が、彼らを導くために「塔の一族」になった。
 民衆は陸で生きる術を知らない上、機械のみでは彼らを守れないと判断し、ずっと会場での生活を続けていたのだという。

 ティーは、元々、この国の人間ではなかった。旅人の夫婦が「船の国」で産んだ子どもだった。そのため民衆は、血のつながりのないティーに関わろうとしないのだった。


 エルメスからすべてを聞いたシズは、

 

「すまなかった。知らなかったとはいえ、非道いことを言ってしまったね……」
「でも……、俺は、君を見捨てない、よ……」
「これから、一緒に助け合っていこう……」

 

 シズの真摯な優しさに、「あ……、ありがとう……」と、本日二言目の言葉を口にするティー。
「礼なんていらない。でも……、どういたしまして」と伝えながら、彼女の小さな体を抱きとめるシズ。
「俺も君も、あの国とさよならだ。君はこれから、俺、と――」

 そこまで口に出した後、シズは、仰向けに倒れた。
 視線が泳ぎ、息が荒くなる彼を前にして、

 

ティー「いやだ。いやだ。おいていかないで」

 

 ティーは、手榴弾を取り出します。

 

エルメス「心中する気だよ。あの子」


 すぐさま「カノン」を構え、狙いをつけるキノ。ティーの小さな手の中で、手榴弾の安全ピンが弾け飛びます。残り4秒。

 

シズ「やめろ!」

 

 その言葉が、ティーとキノ、どちらに向けてのものか判別することはなく――、キノは撃った。

 弾丸は、まっすぐにティーへ向かい、彼女の手中にあった丸い鉄球に、手榴弾の底に当たった。
 弾き飛ばされた手榴弾は、誰もいない波打ち際で爆発し、一つの小さな穴を作った。

 

 

 アニメだけ見ると、最後のティファナの行動理由がちょっと判り辛いかなーと感じたので、追記しときます。

 彼女は孤児で、今までは「指導者」達に育てられていました。強権的な「指導者」からの使いのような役割も負っていたみたいで、国民からは不気味がられ、厭われていたのです。
 そんな中、シズが民衆に自由を与え、支配者の存在を抹殺してしまったのです。これでは、ティーが「船の国」に戻ったところで、居場所を失くした彼女が生きていけるはずはありません。シズが発した「国に戻ると良いよ」という台詞は、彼女にとっては、死刑宣告に等しい言葉だったのです。
「わたしにもどるところなんてない」
 と呟いた(原作では、叫んだ)ティーには、このような事情もあった訳です。

 シズ様の優しさも良いですね。真面目な人ですから、放浪の身でありながら彼女を預かる事には抵抗もあったはずです。しかし、彼女の生活を自らの行動で捻じ曲げてしまった償いの為にも、彼女と助け合って生きていく事を決意したのです。
 なんて良い話でしょう。キノと師匠とシズとでは三人三色、見事なまでに生き様が違います。対比が生きています。
 これから2人と1匹は一緒に旅を始めることになるのですが、このお話を境に、ファンの間で「シズ様ロリコン疑惑」が一層高まったのは言うまでもありません。

 

 そして、ラストの「死ぬほど驚くかもね」の一言。

 シズから「どこかに落ち着いて暮らす」つもりはないのかと訊かれたキノは、はっきりと答えます。「今のところも、将来においても、多分ないでしょうね」と。

 しかし、別れた後「あんなこと言ったけど、将来またあの人と会ったら、その時は……」「そうだね、あの人は――」「死ぬほど驚くかもね」と会話しているのです。

 作者の時雨沢恵一さんは、あとがきの中で「キノの旅の最終回になり得るストーリーのアイデアは、既に存在している」と明言しています。

 キノは、定住をほのめかしているのか?
 キノには、どこか明確な最終目的地があるのか?
 シズとの会話の文脈から想像されるキノ定住説」。もちろん、それを狙ってのミスディレクションの可能性はありますが、かなりインパクトの強い一説ですよね。

 

 ……あっ、忘れてた。

 キノシリーズでは「迷惑な国」「船の国」以外でもう一つ、「国自体が動いている国」があるのですよ(2017年11月現在)。

 答えは「鉄道の国」。

 17巻の11話ですね。列車が一つの国となっていて、線路を走りながら他の国との交易をつないでいるのです。

 

 以上、初めて5000字を超える記事を書いたヒダマルでした。