『スロウスタート』 第六話「うなぎのぬるぬる」

 


「はじめましてっ、百地たまてと申しますっ! 花名ちゃんにはいつもお世話になってますっ!」

「こちらこそ、花名ちゃんがいつもお世話になってます」

 たまちゃんと、志温さんが。
 困惑する花名の目の前で、なんか初めましてのご挨拶しちゃってます。


「私の事はお気軽に、「たまちゃん」っとお呼び下さいませっ!」
「あら、じゃあ私のことは、「志温ちゃん」とお呼び下さいませ」

 急速に仲良くなってく2人を前に、ただただ圧倒されるばかりの花名ちゃん。今晩の夕飯はたまちゃんが作ってくれるらしいので、今日はお泊りでしょうかね?

 

 

花名「たまちゃんって凄いよね……」

 駅前で、しみじみと友人を褒める花名ちゃん。

た「ん? なにゆえですか?」
花「だって、初対面の人ともすぐに仲良くなれるから……」

 うん、凄い。
 ヒダマルだったら絶対無理です。特定の人とか集団とかに慣れるのに、だいたい2年くらいはかかりますからね。スロウスタートレベルでは負けてませんね。


た「それはですねぇ、私が凄いんじゃなくて、相手の方が優しいんですよぉ!

 なるほど、そういう考え方……
 けど、やっぱ凄いと思いますよ?

 


た「そして、どんな人でもお構いなしにグイグイ行く方があちらに……」

 あ、ホントだ。
 駅の中から、栄依子さんと冠ちゃんがやってきました。今日は4人でお泊りです。


 今回は、というか今回も、「勉強会」が目的です。
 それと、花名の従姉妹の志温さんがお出かけして不在になるので、花名ちゃんのためでもあります。

栄依子「ひとりじゃ何かと不安よね」
たまて「そうですね~。ひとりでお留守番してると、なんだか怖くなることありますし。やたらと背後が気になったり」

栄「ああ~。シャワーを浴びてる時も、背後に気配を感じたりすることはあるわよね」
「まぁ、それは大抵私なんですけどねっ!!」
栄「君だったのかぁ……」

 そうだったのかぁ。

 

 

 そういえば、花名ちゃんもこの前、

部屋で勉強してたら、背後で何かが落ちる音がしてね……。おそるおそる振り返ったら、そこには……

 

「ち、」

 

「「「血!?」」」

 

「小さな……、ネジが…………っ!!」

 え、ネジ?


「どこのネジなんだろうと思ったら、怖くて眠れなくなっちゃって……」

 花名ちゃん、それは「怖い」の種類が違います。

 

 


冠「あ。良い匂い」

 かむちゃんが、何かを発見しました。流石は食いしん坊。香りの元を探ると、どうやらうなぎ屋さんから漂ってくるみたいです。それは堪りませんね。

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〈公式サイトより引用〉Ⓒ篤見惟唯子・芳文社/スロウスタート製作委員会

 

 職業体験の記憶を思い出して、うなぎが食べたくなってきちゃったたまちゃん。しかし、「今月ちょっとピンチなので……」との言です。
 というのも、

「百地家では、一月分の食費を私が預かってやりくりしてましてっ。残った金額が、私のお小遣いとなるのですが」

 おぉー。
 すごく良いシステムだと思いますよ。お金の管理を学ぶって大切な事です。でも、新しい料理を覚えたり、美味しそうな食材を見つけたりすると、おばあちゃんたちに食べてもらいたくなってしまうそうな。

 うん、分かる。
 新しい料理って、家にない調味料が必要になったりするので、その辺を揃えると結構な出費になったりするんですよね。分かるよー。ヒダマルも料理番ですよー。


たまて「今月は家族で食べに行くほどの余裕はないかもですねぇ……

 外食の分まで管理してるんだ……。
 たまちゃん、えらい。

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  〈公式サイトより引用〉Ⓒ篤見惟唯子・芳文社/スロウスタート製作委員会


花名「やっぱり偉いよ、たまちゃん……!」

 友人の新たな一面に、感動してる花名ちゃん。自分に出来ないことが出来る人って、素敵ですよね。
 つまり、人間はみんな素敵な訳ですが。


た「お? そうですか? 褒めますか? ではっ、存分に褒め称えて下さいなぁっ! チヤホヤしてくださいなぁっ!!」

 たぶん冗談で言ったたまちゃんですが、


「うんっ。するよっ、チヤホヤ!」
た「えっ?」
「たまちゃん、ほんっっとに凄いよ!! 偉いよっ!!」
「ん。たまはすごく偉い」

 なんか普通にべた褒められちゃいました。珍しく顔を赤らめて、恥ずかしがるたまちゃんです。かわいいです。
 ……よし。
 栄依子、止めだ。止めを刺すのだ。


栄「いい子。」


 なでなで。


 ほめ殺されててんやわんやするたまちゃんが見れたので、今日は良い日です。

 

 

 


 アパートの前で、とある人物と遭遇する花名一行。

「お。花名ちゃーん!」
「大会さんっ」

 おっ、引きこもりから脱したばかりのこの女性は、万年大会さんです。しつこく解説しますが、「はんねん・ひろえ」さんと読みます。永遠に決着が付かないくらいに各国の実力差が拮抗しているオリンピック競技を指す慣用句ではないので、お気をつけて。


 ところで彼女は、栄依子にファッションの手ほどきを受けて、永年スウェット姿からの脱却を果たしたはずなのですが……

たまて「戻ってますね。スウェットに」
栄依子「戻ってるわねー」

 うん、全身灰色ですね。
 しかもコンビニ帰りですね。


大会「え? うわぁっ、ほんとだっ!? スウェットだっ!?

 気付いてなかったみたいです。
 ごみ捨てくらいなら、コンビニくらいなら、と日に日に気持ちが緩んでしまったそうな。まぁ、こーゆースウェットで外出してる人もたまに見かけるので、ゴミ捨てくらいならセーフだと思いますが……。え、セーフですよね?


大会「申し訳ない栄依子さんっ! 思う存分殴ってくれぇ!」
栄依子「えーと……。いやです」

 四肢を折り、地面を叩きながら己の罪を懺悔する大会さん。
 彼女へのお仕置きは、


 ぺちっ。


大会「うわんっ」

 冠ちゃんが、お尻をはたくことで果たされましたとさ。なんだこの映像。

 

 


 改めて、栄依子にファッションを整えてもらう大会さん。美人です。たわわです。この姿が維持できると良いですね。

 大会さんは、4人でお泊りすると聞いて「もしかして、巷で噂の女子会というやつかっ!?」と瞳をキラキラさせますが、残念でした。もうすぐ期末試験なのです。

 お泊り勉強会を催すことを知り、そういう事ならと、みんなの勉強を見てあげる提案をしました。女子力を高めてくれたお礼です。この4人への恩は非常に大きいですからね。ここは一肌脱ぎましょう。

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  〈公式サイトより引用〉Ⓒ篤見惟唯子・芳文社/スロウスタート製作委員会

 

栄「おぉ~……。大会さんあったま良い~……!」
た「どういうことですかぁこれぇっ! ビックリですよぉっ!!」

 大会お姉さん、勉学指導を授けながら。

大会(私はいったい、どう思われていたんだろうか…………)

 うぅんと。
 たぶん、隅から隅まで残念な方だと思われていたんでしょうね……。高校生諸君、大会さんは二十歳ですからね? お酒飲めるんですからね?

 

 

 大会さんのおかげで、かなり捗った勉強会。いつの間にか、窓の外は夕焼け空です。

 お風呂が沸いたので、お世話になった大会さんに入ってもらいましょう。功労者ですからね。帰るとか言わずに。遠慮せずに。さあ。さあ。

 

 

 4人の感謝の気持ちと、ヒダマルの邪念が通じ、大会さんは一番風呂の栄誉を授かりました。

 身体を洗って、栄依子さんが持ってきた入浴剤を入れます。
 ……なんか、とろとろしてきました。こんな入浴剤あるの?


「うぅおおおぉぉぉぉぉ…………?」


 謎の呻きを発しつつ、とろみの付いたお湯に浸かる万年大会さん。
 今回の、ハイライトかな……

 

 

 

 二番手、栄依子&冠。
 とろとろしたお湯が絡む栄依子の手を見て、

冠「……おいしそう」


 はむっ。


 ハイライト、更新したな……

 

 

 

 三番手、花名ちゃん。

『シャワーを浴びてたら、背後に何者かの気配を感じたり――』


 お昼の会話を思い出し、不安になる花名ちゃん。そっと、後ろを振り返ると……


「ひとり風呂はそこまでですっ!!」


 たまちゃんが乱入してきました。
 訂正。三番手、花名ちゃん&たまちゃん。

 

 

 


 本日の夕餉は、

とろみ風呂にちなんでっ、たまちゃん特製八宝菜っ! か~ら~の~、中華丼ですっ!!

 です。
 たまちゃんのおさんどん姿、板についてますね。大会さんも一緒に、いただきます。


花名「今なら、八宝菜の気持ちが分かる気がする……! 八宝菜の人生……、悪くない……」

 美味し過ぎて、八宝菜に共感しちゃう花名ちゃん。この子の共感能力の高さはちょっと度を越してますね。日常生活が大変なレベルだと思われます。

 

 

 

たまて「ゲームをしましょうーっ!」

 しましょうしましょう。
 勉強を頑張ったご褒美に、お泊り会の〆にやりましょうっ。

花名「みんなで出来るゲーム?」
栄依子「車運転するやつとか?」


た「ギャルゲーですっ」


 なぜ。
 何故にギャルゲーを持ってきた、たまちゃんよ。
 そして、何故に「ゲームボーイアドバンスSP」なのだ、たまちゃんよ。無印2DSの一世代前だぞ。懐かし過ぎて、ヒダマルがあの遠い夏の思い出を想起するレベルの代物ですぞ。

 

 

 テレビにつないで起動して、とりあえず栄依子に渡しとくたまちゃん。ギャルを落とすゲームですからね。これ以上の適任はいませんね。

 ゲーム内に、たまちゃんのイチオシの子もいるそうです。
 こういうのは好みが分かれますよね。ヒダマルはおっとり系がタイプです。あと、ちっちゃいコが好きです。
 ……体格の話ですよ? 変な意味ではありませんよ? 言っときますが、ヒダマルは『ゆるキャン△』犬山あおいちゃんも大好きですからね。QED。

 ……え、高校生だからどっちみちアウト?

 

 

冠「この子は?」

 かむちゃんの問いかけに、「あぁ~、その子は登場した時彼氏さんがいるのでダメです」と語気を緩めるたまちゃん。若干ですが、いつもよりテンション下がってますね。どうした。


大会「それじゃあ付き合うのは無理なのか……」
たまて「いやまぁ付き合えますが、

 急激に。

 たまちゃんの顔から、あらゆる感情と生気が失せて。

 僅かも光を反射しない、石炭袋みたいな瞳に変貌して。


「ホラ、元カレがいた訳ですし……」

 

「今までもこれからも、私の事しか好きにならない子が良いんですよ」

 


「今までも、これからも…………」

 

 

花名「たまちゃん……。顔が怖い……」

 この子に、こんな心の闇があったとは…………

 

 あ、そんなこんなしてるうちに。
 この短時間で、栄依子さんが全クリしてました。無双だ。

 

 

 


 色々あって、10:30。
 布団に入り、電気を消すと、

盛り上がってまいりました。お泊りと言えば怪談ですよねぇ……?

 スマホの明かりで、たまちゃんの顔が浮かび上がりました。レッツ怪談。

 

 まずは、栄依子から。

「えーっとぉ、前にネットで見た話なんだけど……、あれ? 看護師さんだったかな? まぁいっかどっちでも。まぁなんかの建物があって、そこの窓からこっちを見てる女の人の姿が……あれ? 子どもだったっけ? まぁ色々ありまして、みんな死んでしまいましたとさっ


「ざつ」
た「うろ覚えにもほどがありますよ~」
「み、みんな……。死………。みんな、死……………」

 なんか、世界一雑な『そして誰もいなくなった』のあらすじみたいですね。
 約一名はめっちゃ怯えてますが。

 

 

 次は、かむりちゃん。

「ストッキング売り場とかに置いてある、下半身だけのマネキン。棚から足が生えてるみたいで怖い

 うぅん、怖い、か……?


「そう考えると怖いっ!」

 チョロいなこの子っ。

 

 

 お次は、たまちゃん。

「とある旧家に、使用人として住み込みで雇われた女の子のお話です……」

花「ひぃぃ……」
栄「おぉ、なんだか本格的」


「その家のお嬢様と女の子は、歳が近いこともあり、まるで姉妹のように仲睦まじく暮らしていました……。ある日、彼女がメイド服で庭掃除をしていると……」

 

「ハイッ、ここでメイド服イベントスチルッ!!」

 

 

「何かの気配を感じて振り返ると…………」

 

 

「そこにはイベントスチルーーッ!! イベントスチル、大盤振る舞いイベントスチルーーッ!!」

 


「イベントスチル怖い。イベントスチル怖い、イベントスチル怖い……」

 怖がってるっ!?
 花名ちゃん、雰囲気にのまれちゃダメだっ! ってか、雰囲気すら怖くないからねこの話ッ!?

 ……あ、イベントスチルというのは、「ゲームの進行中に出てくる、豪華な一枚絵」だと思ってください。ゲーマーへのご褒美です。

 

 

 

 

 

 みんなが寝静まった、真夜中。
 簡易百物語のせいで、なんだか眠れない花名ちゃん。水を飲み、ふと足元を見ると、そこには。


 ネジ。


 一本の、小さなネジが、落ちています。

 何か知らんけど怯える主人公に、百地のたまちゃんが声をかけました。

 

 

 


 台所に、並んで座って。

花名「どうしよう、これが大事な所のネジだったら……! みんなが寝てる間に天井が落ちてきたり、柱が倒れたり、あああアパートごと崩れたり……っ!!」

 ネジ一本でネガティブになれる花名ちゃんですが、「そんな重要な部分には、こんなちっこいネジは使わないと思いますよっ」と、たまちゃんがフォローしてくれました。
「こんなのが怖いなんて変だよね……」と卑下する花名に。


た「いいんじゃないですか?」


 あっさりと。
 受け止めてくれる、たまちゃんです。

 

「好きな物、怖い物。人それぞれですよ」

 

「ギャルゲーだって同じですよ。幼馴染。ツンデレ、クール系、お姉さま。中には元カレがいる子だっているでしょう? 最近は「男のムスメ」と書いて、男の娘……、あ、これは複雑になるのでさておき」

 

「ギャルゲーの女の子たちは、高感度の上がるプレゼントもデートの場所も、全部違います。だがっ、それがイイんですっ

 

同じものが好きで、同じものが怖くちゃ、攻略のし甲斐がないってもんですよ! あっ、でもやっぱり元カレはダメですね!」

 


 たまちゃんの、熱いギャルゲー愛を聞いて。ちょっとだけ、楽になれました。
 それにしても、「ネジが怖い」なんて珍しい感性に対して、よくここまで否定せずにいることが出来ますよね。彼女の人間観の深さが窺えます。

 そして。


でも、怖いですよね。夜中にそんなもの見つけちゃったら。どこのネジだろうね、怖いねって話し合える人がそばにいないのは、心細いですよね

 相手の置かれた状況を。
 立場を、思い描いて。


花名ちゃんは、私の事を偉いって褒めてくれましたが。一人暮らしで頑張ってる花名ちゃんの方が、よっぽど偉いですよっ。花名ちゃん

 理解しようと、してくれました。
 共感しようと、してくれました。


花名ちゃん偉い偉い。よーしよしよしっ

 花名ちゃん。
 良い友達を持ちましたね。

 

 一年遅れて、よかったですよね。

 

 

 

 


 翌朝。

 冠ちゃんのほっぺが、ぽちっと赤くなってます。

「栄依子の乳首のあと」
栄「かったいなぁ、私の乳首……」

 カッチカチですね。
 羨ましいですね。


花「ネジの呪いで、乳首がネジに……」
栄「なんでピンポイントで私の乳首呪うのっ……?」

 変態な呪詛ですね。
 これがホントの「乳首ドリルすな」ですね。

 正体は、栄依子の服の胸元についてたボタンの跡でした。
 原因が分かれば、べつに羨ましくは……、って羨ましいわッ!!


冠「ネジと言えば。これ

 かむちゃんが差し出したのは、部屋のスイッチカバー。コレのネジが取れてたんですね。この程度ならすぐ直せるでしょう。落着です。

 


 あ、最後まで寝ていたたまちゃんが起きました。
 両腕を胸元で組んだまま、腹筋の力だけでぐいっと起き上がりましたよ。ちょっと怖いな。
 それにしても、浴衣がまったく着崩れていませんね。

「そうでしょう? わたくし、ツタンカーメンより寝相が良いと評判ですからねっ……」

 いや、あの方は寝相が良いんじゃなくて、ホータイグルグル巻きで身動き取れないだけだと思うよ?

 

 

 ED後には、いつも頑張っているたまちゃんへのご褒美に。同居のお婆ちゃんズが、うなぎを食べに連れてってくれましたとさ。

 めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

 今週は完全なるたまちゃん回でした。

 いやぁ意外な一面が出てきましたね。彼氏持ちキャラは地雷みたいです。話を振ったが最後、闇・たまてが表出しますから気をつけましょう。罰ゲーム受けますよ。

 それと、冒頭とラストに出てきた、大きなリュックを背負ったツインテールなたまちゃん。どことなく八九寺真宵ちゃんに見えますよね。迷子になった後に噛みまみた末に実は地獄に落ちてそうですね。


 そして特筆すべきは、たまちゃんの多様性への姿勢。これは学ぶ所が多いですよ。
 ヒダマルは、理解・共感・賛同は分けて考えるべきだと思います。どんなに度し難い事物に対しても理解・共感までは努力義務があり、その後に賛同するか反対するかになって初めて、個人の自由というものが関われるのではないかと。

 ワイドショーのコメンテーターさん、「理解できません」とか「あり得ないことです」とか、簡単に言ってはいかんぜよ。あなたが理解できようができまいが、あなたがいくらあり得ないと感じようが、事実、事は起こっている訳ですからね?

 考えましょう。
 現実を見ましょう。
 空想に生きるのは止めましょう(アニメを観るのは止めましょう、って意味じゃないですよ?)。

 理解と共感の努力は、そのためのスタートラインになります。

 

 えぇと…………、『スロウスタート』だけになッ!!
(話が逸れ過ぎたので無理くり畳んだヒダマルでした。)