『だがしかし2』 第七話「尾張ハジメとチョコボールと……」


       急募!
     アルバイト募集

     ☆お店での接客
     ☆品出し・発注
     ☆未経験者OK


「やっぱり必要だよなぁ……。僕が学校に行ってる間だけでも」

 秋の夜、店先にバイト募集の張り紙を出すココノツ。

「でも、どうなんだ……? そんな余裕、ウチにあんのか?」

 そこですね、問題は。
 先週は駄菓子以外食べるものがないとか言ってましたし。バイトを雇うお金を考えると、ちょーっと無理があるような気もします。

 なんてことを考えながら、店内へ戻ると。


「すいませ~ん……」


 背後から、女性の声がかかりました。時刻は8時前ですが、こんな時間にお客さんでしょうか。
 しかし、「客が来たらまずいらっしゃいだろ」と紅豊さんに教わったココノツくんは振り向きざまに、

「いらっしゃ、なっ!?

 言えませんでした。
 なぜなら。


「ウッス! 店長さんっスね!」


 土下座。

 そこにいたのは、土下座でした。いや、土下座をしている女性でした。ココノツ困惑。
 リクルートスーツを着たその女性は、顔を上げながら、眼鏡越しの視線を投げかけつつ、


「ここで働かせてくださいっス!!」


   第壱話
  眼
  鏡、襲来

 

 

尾張ハジメとチョコボールと…

ココノツ「えっと、尾張ハジメさん、二十歳……。えっ? こんな有名な大学を中退!?」
ハジメ「えへへへ……」

 店のカウンターを挟んで向かい合う、鹿田ココノツと尾張ハジメ。ココノツは履歴書を眺めています。うん、面接始まってますね。


 彼女こそ、紅豊さんに続く新キャラです。
 スーツにボサボサの茶髪、黒縁眼鏡と覇気のないタレ目が印象的。最後の要素はココノツに似てますな。

 それと、「ハジメ」は漢字で書くと「一」です。フルネームで「終わり・始め」です。「オメガ・アルファ」です。
 そういえば、「アルファオメガノヴァくん」っていうイケメンキャラが『宇宙パトロールルル子』にいたなぁ……

 

ココノツ「なんで(大学)辞めちゃったんですか?」
ハジメ「まぁ、思う所ありまして……」

 そーゆーことズバッと聞いちゃうココノツくん、やっぱ子どもですね。いろいろあんのさ、いろいろ。
 いやまぁ、面接中だから当たり前か。


 それにしても、履歴書を読む限りでは、つまり学歴や資格では、わざわざ零細駄菓子屋の門を叩く理由が分かりません。ココノツとしては幸運なのですが、志望動機は不可解ですね。
 と、ココノツくん。
 履歴書の経歴欄に、気になる文字列を発見しました。


平成29年 11 株式会社タウンズホールディングスかしがはま店にアルバイトとして勤務(接客業)
平成29年 11 一身上の都合にて退社


 同じ年の9月に「千代田一ツ橋大学」を退学してから、職歴はその二項目しかありません。

「この唯一のバイト経験ですが……」
「あ、あぁー、書こうか悩んだんですけど……。はい、昨日まで、向かいのコンビニにいました……

 気まずそうに、背後を指さすハジメさん。向かいのコンビニといえば、元気な変態・紅豊さんがやってる「タウンズマート」一つきりです。


「えーっと、あのコンビニって、ついこの前出来ましたよね? もう辞めちゃったんですか?」
「あぁー、えぇっとぉ……。クビ、ですね……」
「クビ!?」
「履歴書返されて、もう来なくていいって言われたッス……」

 頬をかきつつ、目を泳がせつつ、正直に白状するハジメさんです。職場がこんだけ近いと、隠しててもどうせバレますしね。


「いやぁ~、あまり、周りとも馴染めなかったし……」
「馴染めない……。ああっ!!

 ココノツ、ピンときた。
 向かいのコンビニ店員の中で、馴染めていない女性と言えば!

「求人情報誌の、これ!」

 豊さんが置いて行った、求人情報誌。彼のコンビニの欄に、いました。ノリノリではっちゃけてるメンバーの後ろに、一人だけ暗い顔をしてる頭ボサボサの眼鏡女性が。
 うん、やっぱりこの方でしたか。
 前回のラストではよろよろ歩いてましたっけ。そしてコケてましたっけ。


「だって、ほんとキツかったんス!! あの店長、みんなにあだ名つけるんスよぉ……」

 


「素晴らしいッ!! 君たちはもう仲間だッ!! 良きにあだ名で呼び合おうじゃぁないかッ!!」

 従業員に挨拶の指導をしながら、秋の空より高いテンションであだ名を決めていく豊さん。

「三木本くんはミッキー!
「元木くんはモックン!
「板垣はイタッチ!

「尾張ハジメくぅんッ!」

 

「キミは――、」

 


「メガネだッ!!」

 

 


「そんで自分、メガネっスよ……?」
「なんで別パターンッ!? なんで名前短くしてキャッチーにするパターンから外れたッ!?」

 しかもメガネて。
 イタッチも眼鏡かけてんのに、メガネて。

「ねーっ!? 言うほどメガネじゃないっつーのっ! ってね?」

 いや、そこは眼鏡ですよ?
 眼鏡か眼鏡じゃないかで言えば100%眼鏡ですよ?

 

 

 それにしても、周りと馴染めないくらいでクビになるもんですかね。
「コンビニバイトなんて誰でも出来る」なんて全く思いませんが(事実、ヒダマルには無理)、あの店長なら話せば分かってくれそうな気も……。いや、話が通じない可能性の方が高いか……?

 

 まぁヒダマルとしては、雇用者と労働者の理想的な関係は

「雇いやすくてクビにしやすい(正社員として)」
「そして、転職・再就職がしやすい」

 なのではないかと考えますが。

 前者は派遣っぽいイメージがあるので整備するのは労働者側からかなり反発されそうですが、正社員用にその辺のルールを整えることで雇用者側のデメリットを押さえられるので、結果的に労働者が働きやすい・職業選択しやすい・可能性を試しやすい社会環境が用意されるんですよね。

 派遣切りなんかが問題になっているのは、日本の現状では後者の要件が喃語レベルで話にならないためであって。日本はとんでもなく治安が良いし、最底辺のセーフティーネットをこれ以上考えるよりも、労働環境からの脱落者を減らす方向に目を向けないとヤバいんじゃないでしょうか。
 上記の二本柱を立てさえすれば、後は各々が幸福を追求して価値観(能力や適性、信念やライフステージ)に応じた職種を選んで試していけば済む訳で。まぁ新しいルールが生まれればそれに伴った問題が生じるのは常なので、その後のケアは必須でしょうけど。

 長期に渡る就職活動の所為で学業が疎かになってしまう「大学生の就活問題」とか、そもそも内定出すのを卒業者限定に絞れば一発で解決する話ですし(社会に出るのがちょっと遅れるだけです。色々と案は出るでしょうが、どんなに最長でも一年ですよ?)、いつまで終身雇用前提の青田買いスタイルやってんだよと。「一年遅れ=バイト・派遣一択」「転職は人生最大のギャンブル」「一所懸命」が基本システムとか時代遅れにも程度ってもんがありませんか。そりゃ海外に人材流れるさ。結婚できないし人口も減るさ。「女性が活躍できる社会」とか宣ってますが、ヒダマルの耳には「奴隷が少なくて困っちゃうから増やさなきゃ!」と言ってるようにしか聞こえません。

  要するに何が言いたいかというと、政治家さんとか霞が関さんとか大企業の社長さんとか大学の学長さんとかさ、社会を回すお偉いさんたちってさ、

 


お前等、やる気がないのか頭悪いのかどっちだよと。


もしかしてどっちもなのか、と。

 

 

 

 


 急激に話が逸れましたが、あなたが読んでいるのは「ヒダマルのアニメ日記。」で間違いありませんのでご心配なく。チャンネルはそのまま。


 うん、閑話休題。
 コンビニの雰囲気に馴染めなかった尾張ハジメさんですが、

「あー、それは関係ないっス。言いにくいんすけど、ちょっと遅刻して」
「遅刻? たまにならウチは、」


「研修期間の日、ぜんぶ遅刻しまして……」


 OH……


「いやぁ、自分、めっちゃ朝弱くってハッ!?

 あ、気付いた。
 正直に話し過ぎたって気付きましたねハジメさん。はい、ココノツくん引いてます。


「あ、大丈夫っス! 遅刻は直すっス、直すっス! だからぁあのっ、お願しますっス!」

 慌てふためく彼女をシビアな視線で凝視しつつ、ココノツはある結論に達します。


(なるほど……。分かったぞこの人……。他じゃ働けなくて仕方なくウチに来たんだ……!!)


 そうと分かれば。

「えーっとー、おつかれさまでーす。けっかはごじつめーるかなにかでー、」

 感情を失った棒読みゼリフで店の奥に逃げようとするココノツ。
 対して、神速の右ストレートで服をつかみ、逃がしはしないハジメさん。

「うまく帰そうとしてもそうは行かないっスよー!? あと、自分電話ないんで……」

 電話ないんだ……。
「生きるためのお金がないから今すぐ働きたい」って人間にとって、「電話」と「住所」は最大の難関ですよね……。


「頼むっス、もう面接で落とされたくないんス、家賃払えなくてヤバいんス~!! もう最低賃金のここしかないんス!」
「最低賃金……」

 泣き落としにかかるハジメさんです。
 今時、目尻からちょちょぎれるタイプの泣き方です。涙のアーチです。もうのび太君しかやらんぞこの泣き方……

 しかも、もう部屋を追い出されているそうな。それで前回、力なくキャリーケースを引きずってたんでしょうか。っていうか「住所」もナシか。彼女、いよいよ困窮してます。
 助けてあげようよココノツくん。


「そう言えば、気になってたんスけど。ココノツさんって店長っスよね?」

 まぁ、若すぎますよね。まだ15歳ですからね。
 家の事情を話すココノツですが、店主の父が入院中であることを聞くや、どうしてかハジメさんの表情が明るくなりました。

「だから昼間店を見てくれる人が、」


 ばんっ。


 カウンターに腕を叩きつけて。

「てことは、一人暮らしだ……」

 蜘蛛の糸を見つけたカンダタみたいな声で。

「部屋、空いてるんだ……」

 あの、ハジメさん? シカダ駄菓子は、民泊じゃないですからね?


「ここで住み込みで働かせてくださいっスッ!!」


 注文増えてるッ!?

「だって、それなら遅刻もないし、部屋の心配もなくなるし(ニッコリ)」
「いや、それは尾張さん側の理屈でしょっ!?」
「ハジメで良いっス!!」
「打ち解けようとしてる……!?」

「じゃ、こうしましょう。自分は、住ましてくれればそれで良いんで。お給料全部、家賃にしますっ」

 いやいやいや、それだってハジメさんの理屈ですからね。図々しいにも程が……


 え?

「えッ!?」

「な、なんかの罠とか? えっ? ホントにいいのッ!?」


「よろしくっス!!」


 尾張ハジメ、二十歳。
 シカダ駄菓子へ、住み込み成功。

 AngelAttack……

 

 

 

 

 


「あの……。ハジメさん?」

 一晩が過ぎて、朝。

「そろそろ起きて……、いただきたいと思うんですが……」

 店舗スペースの畳の上で、ココノツ少年に無防備な寝姿を晒すハジメさん。えーと、目のやり場はどこだろう。

 というか、なんでこんなとこで寝てるんでしょう。

 

 


「いやー。自分めっちゃ遅刻するって言ったじゃないスか。だから、初日だけでも遅刻しないようここで寝てて……」

 初日だけって。

「えッ!? 6時ッ!? 夕方のッ!?」

 朝でしょ。
 どう考えても朝の6時でしょ。
 6:00に起きるより18:00に起きる公算の方が高いって無理があるでしょ無理が。普段どんだけ寝てるんですか。

 

 

 

「うまい棒とまけんグミは二段で、おやつカルパスとサイコロキャラメルは奥に補充品が――」

 ハジメさんに、基本業務の説明をするココノツ。学校に行っている間は彼女が一人きりですから、急ぎ一通り伝えておく必要があります。そのために早起きしたのです。
 説明を受けながら、メモを走らせるハジメさん。

「う~ん……」
「どうしました?」
「やることは分かったけど……、駄菓子の種類が多くて……。自分、駄菓子屋ってちっちゃい頃に一回位しか行ってないんスよねぇ」
「そんな人類いるの……?」

 いないことはないでしょう。
 お爺ちゃん家にはありましたけど、ヒダマルも実家の近くにはなかったですし。あったのかな、探せば。


 駄菓子自体あまり食べたことのないハジメさんに、「ホントにこの人で大丈夫なのか?」な目線を向けるココノツ。
 衣食住の危機を察したハジメさんは、急いで知っている・食べたことのある駄菓子を探します。ドラえもんみたいに探します。ドラえもん要素多いなこの人。
 探し当てたのは、

 

「これ、めっちゃ買ってましたっ! キョロちゃんっ!!」

 

 キョロちゃんっ!
 じゃなくて、「チョコボール」!


「おおっ、チョコボールですねっ!? その名の通り、ボール状のチョコレート菓子!」

 うん、ココノツのお眼鏡にも適いました。駄菓子の話となると、死者のような瞳も輝きを増します。

「ピーナッツが主流だが、キャラメルやイチゴ味と、種類の豊富さも強みの超メジャーな菓子ですよねっ! そんなチョコボールに目を付けるとはっ、やりますねぇっ!」


 店長代理に褒められて、嬉し恥ずかしハジメさん。

「あー、でも自分はそれよりもですねぇ。金なら一枚、銀なら五枚でもらえるおもちゃの缶詰が欲しくてですねぇ」


「チョコボールよりも缶詰……?」


 ハッ!?

(し、しまったぁ……!! やはり駄菓子屋としては、おもちゃよりも、お菓子そのものに興味を持ってほしかったのかっ? なのに、私は、また相手のことを考えず、自分の好きなものの話だけしてしまったっ……)

 

(またクビになってしまうぅーーーーッ!!)

 


「……尾張ハジメさん」
「ふ、フルネーム……!」

 

「僕も集めてますっ! 銀のエンゼルいま四枚ですッ!!」

 


 ココーノツ、お前もかっ。
 っていうか、常に持ち歩いてんのかっ!?


 ちなみに、ヒダマルは二枚っス。これこのように。f:id:hidamaru:20180228130523j:plain

 

 

「自分、一回リサイクルショップで見つけたことあるんスよ。カンヅメ」
「えっ」
「その日、バイトの面接だったんスけど……。邪道とは分かりながらも、欲しくて欲しくて」
「それで……?」

 ココノツくん、真剣に聞いてます。引き込まれてます。


「一日悩んで、結局買わなかった挙句、面接もすっぽかしてマジやばかったスよ……」
「どちらも未達成ッ!?」
「ねー? せめておもちゃのカンヅメだけでもゲットしとけばー」
「そっちッ!? 仕事ゲットが先でしょっ?」

 5歳年下の男の子に、労働について諭されるハジメさんです。


 ちなみに、ヒダマル家には飾られてます。ふたつとも、これこのように。中身はもうないけど。 

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「でも、仕事ゲットできなかったから、ここでこうして働けるんすもん。これで良かったっス」
「ま、まぁ、ならいいんですけど……」

 ココノツくん、素直な言葉にちょっと照れちゃいます。


「あ、そういえば知ってます? キョロちゃんのデザインって、普通に可愛いだけの絵に見えますけど、実は横向きなのに、両目が見えてるんスよ。ヒラメや、カレイみたいに」

 言われてみると、確かに。

「これって、「同存化表現」といって、色んなアングルから見たものを、ひとつの絵の中に収めちゃうっていうぶっとんだ表現で。あのピカソとかが発明した技法なんスよー! なんか、ヤバくないっすかー?」

 チョコボール豆知識を語るハジメさんに、ココノツくん、なんか……、ちょっとくやしい!
「同存化表現」とかいう言葉を知ってる癖にまとめの語彙が壊滅的なのを差し引いても、なんかちょっとくやしい!


 ここは、負けてられません。

「ふふふ。じゃあ、知ってますか? もともとチョコボールのキャラクターって、キョロちゃんではなくて、まったく別のアニメのキャラで……
「店長」
「え」
「いいんスか?」
「ああっ!?」

 ハジメさんの指の先には、8:13を示した時計が。うん、ヤバい。

 

 チョコボール蘊蓄は後回しにして、駄菓子屋を飛び出し、学校へ向かうココノツ。そんな彼を、道に出て見送りするハジメさん。

 

 


「んん……?」

 

 そんな2人を、

 


「ハアアアアアァァッ!?」

 


 目撃する、サヤ師でした。

 

 

 

 

 

 ほたるさんがいなくなってから、二話連続で畳みかけるように新キャラが登場してきました。読者・視聴者を飽きさせない工夫が凝らされていますねー。
 ここで新キャラを立たせておいて、ほたるさんが戻ってきたら環境が変わっててビックリ+更なる化学反応という運びでしょう。

 というか、ほたるさんは何処で何してるんでしょうね……?


 ハジメさん、コンビニのノリに馴染めなかったみたいでしたけど、結構気さくですよね。コミュ障って感じでもないですし、まさかの体育会系ですし。大勢いると無理とか? ヒダマルと似たタイプかな?
 ヒダマル、相手が2人以上になるとどっちに対応して良いかよく分かんなくなるんですよね。喋るタイミングとか。障害とまではいきませんけど。


 次回、「ロールキャンディとハイエイトチョコと……」。
 ロールキャンディ? ヒダマルは知らない駄菓子です。ハイエイトチョコは……、うん、たぶんアレですかね。名前からして。

 さぁ。
 どう出る、サヤ師。