『スロウスタート』 第十二話「スロウのスタート」


 ヒグラシの鳴く夕暮れ時。
 花名ちゃんの部屋に、志温さんが訪問しました。花名のお母さんから届け物だそうな。
もしかして新しいお洋服かなっ?」と期待する花名ちゃんですが、

志温「それが花名ちゃん宛てには、この封筒だけだったの」

 封筒? だけ?

 


 花名ちゃん、受け取った封筒を開けてみますが、中に入っていたのは、


 現金。


「わたし……、要らない子になっちゃったのかなぁ……?」

 泣いちゃった。

 

 


 花名ちゃんがポイってされちゃう訳もなく。

 このお金の意味は、お母さんが「自分で服を選びたい年頃かな」と気を利かせてくれたのです。電話して確認しました。


 服かぁ……。

 ヒダマル、最後に服買ったの何年前だっけなぁ……(遠い目)

 

 

あまあまのアメ

たまて「それにしても登校日って、授業なくて最高ですねぇーッ! 普段も集まって話して解散だったらどんなに良いことかぁっ」

 たまちゃんのテンションは、登校日でも天井知らず。

栄依子「寄合所だそれ……」
冠「お弁当もない」


 いつもと変わらぬ友人を前に、なんだか浮かない顔の花名ちゃん。自分で服を選ぶのが不安なのです。

 う~ん、葉月お母さま、これを見越して色々経験させときたいんでしょうね。

 

 

 ちなみに、栄依子さんのお母さまは時々手作りの服をくれるそうです。凄い。
 そして、たまちゃんはお婆さま方の着物を直してもらって着てるそうな。凄い。
 最後にかむちゃんは、基本お母さまが選んだ服だそうですが、

冠「でも、ひらひらひらひらひら、してて……」

 あれはあれで、凄い。
 抜群に似合ってるけど。

 

 

花「自分で選ぼうと思うと難しいなぁ……。大会さんの気持ちが分かったかも……」

 栄依子さんにお世話になってる方ですね。引きこもりだった万年大会さん。


花「最近は、10キロ先のコンビニでも余裕だって言ってたよっ?」

 けなげな努力が明後日の方向に突き抜けちゃってます。

 

 

 

 

 

「せんせ~? お疲れ様でしたぁ」
「おう」
「今日は、これで終わりですよね?」
「ん? そうだな。まったく、なんで夏休みなのに学校に来ないといけないんだ」

 並んで歩くお二人は、栄依子さんと榎並先生。
 栄依子さん、今日もちょっかい出すつもりですね。夏休みで榎並先生分が足りてないと見た。

 最終回の、ラストバトルです。

 


「先生、アメ食べます? 美味しいですよ、これ」
「お。知ってる。うまいよなぁ、これ」
「じゃあ、どうぞ?」
「ん。サンキュ」

 栄依子にアメ玉をもらって、口に入れた瞬間、


「榎並先生。至急こちらに来て下さい?」


 学年主任さんから声がかかりました。
 見られてた? 現行犯?


「うわ」
「お説教ですかぁ?」
「うるせぇ。……おい、ちょっとこれ預かってろ」
「っ!?」

 

 かったるさ全開で学年主任の元へ向かった、榎並先生。
 その背中を見つめながら、

 

(預かってろ、ってとは……。それは、つまり……)

 

 

(甘……)

 

 

 

 


「ぁあ、疲れた……」
「ご苦労様ですっ」
「アメは?」
「終わっちゃいましたよ、そんなの」
「なんだと」

 先生、なかなかのショック。

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〈アニメ『スロウスタート』公式サイトより引用〉Ⓒ篤見惟唯子・芳文社/スロウスタート製作委員会


「戻ってくるの、遅いんですもん」
「仕方ないだろ。学年主任の説教が長いんだし」
「あははっ、やっぱりお説教だったんだ」
「うるせぇ。……もう、持ってないのか? アメ」
「? いやぁ、あれが最後でした」
「マジかぁ、くそっ……」

 悪態をつく榎並先生。
 悔しそうな表情を見て、
 栄依子さん、自分の口元に指を添えて。

 


「まだ、味」


「残ってますけど……?」

 

 

 

「何言ってんだばぁか」
「いったーい」
「痛くないように叩いてるだろ」
「確かに全然痛くないですけど」
「さっさと帰れよ」

 あっけなく去って行く先生を見送りつつ、なんだか不満げな栄依子さん。その手の中には、一粒のアメ玉があります。


(甘い……。けど……、)

 


(期待してた甘さとは違うのでした……。なーんて)

 

 

 

 

 ……彼女の背後にて、様子をうかがっている三人。

た「もうイッコ持ってるじゃないですかぁ……ッ!?」
冠「たくさん持って来てた」
花「私、さっき貰ったよ……?」

 

 

 ……更にその背後にて、様子をうかがっている影が。

「栄依子ちゃん、栄依子ちゃん、栄依子ちゃん、栄依子ちゃん、栄依子ちゃん、栄依子ちゃ~ん……」

 椿森幸ちゃんです。
『スロウスタート』におけるガチ百合キャラです。こわい。

 

 

 

 

 

 久しぶりの学校から、帰宅すると。

大会「あっ。花名ちゃんお帰りー!」

 志温さんと大会さんが、アパートの前で出迎えてくれました。


 学生服姿で。


花「ど、どうしちゃったの、二人とも、その服……!?」
大「聞いてくれるか、花名ちゃんっ!」
志「聞いて欲しくて、ここで二人で待ってたのよねぇ」

 浮かれてるのか気合入ってるのか分からない、大会さん曰く。
 明日から予備校が始まるが、浪人と気付かれぬように、志温さんの制服を着ていこうかと考えてるんだそうです。
 だから、試着していたのです。

 志温さんは、完全にノリです。

 

 大会さん考案の、「郷に入っては郷に従え」作戦でしたが、

花「あのぉ……、もう夏休みだから、制服で来る人はあんまりいないと思う……

大「…………………は。」

 

 

 

マグロのようふく

 すっかりお馴染みのショッピングモールに集まったのは、やっぱりお馴染みの四人です。
 今日は、花名ちゃんに似合う服を探すのです。花名ちゃん不安そう。

 でもね、大丈夫。
 あなたには、優しい友人が三人もいるので


「只今より、マグロの解体ショーを始めまぁすっ! みなさま、こぞって見学してくださぁいっ!」


 ぴくり×2。

「かむちゃん聞きましたかっ? これは是非参加しなくてはっ」
「がってんしょうちっ」
「という訳で、ちょいと失礼しまっすっ!!」

 うん、二人が離脱した。

 

 ……でもホラ、大丈夫っ!
 ファッションマスター・栄依子ちゃんがいるからっ!!

 

 


 とりあえず、二人でお店に入りました。
 心の中でうにゃうにゃ悩んでいる花名ちゃんを見て、さっそく栄依子さんからアドバイスです。

栄「ゆっくりで、良いんじゃないかな?」

「素直に、今の花名が好きな物を着たらいいと思うわよ。無理にいつもと違う服を着てるのも、花名らしくないしね。あ、それはそれで可愛いと思うけど」


 この物語の総まとめみたいな台詞を口にする栄依子さん。
 彼女の助言により、素直に好きな服を選ぶことが出来た花名ちゃんでした。

 

 


た「いやぁーっ、スゴかったですよ解体ショーっ!」
冠「堪能したっ。味見もしたっ」

 すっかりマグロに魅せられた二人が帰ってきました。
 たまちゃんは「まぐろ」、かむちゃんは「赤身」って書いたシャツを着てますが、えっ、それ買ったの? 罰ゲームじゃなくて?

 

 


 雑貨屋さんにやってきた四人。
 花名とたまちゃんに贈った誕生日プレゼント、くまのぬいぐるみを買った店でもあるそうです。

「そういえばっ。今日は栄依子ちゃんとかむちゃんの誕生日の、間の日じゃないですかっ!?」

 という訳で、今度は花名とたまちゃんの二人が、栄依子と冠にプレゼントを渡します。
 みんなでお揃いですね(統一感、大事。 byかむちゃん)


 ちなみに、新たなくまさんは花名ちゃんの部屋に置いておくことにします。
 たまちゃんの分も、「愛する二人を引き離す感ありますな……」との理由で一緒でしたからね。

 

 

スロウのスタート

「今日はありがとう。おかげで素敵な服が選べたと思うっ」

 活躍したのは栄依子さんだけですが、まぁ置いといて。
 夕暮れの駅前で、素敵なみんなとお別れします。

た「今度それ着てお出かけしましょおっ!」
花「うん!」
冠「その服でパフェ食べにいったり、お寿司食べにいったり、カツ丼食べにいったりしたい」
栄「どんどん服がメインから外れていくなぁ……」

 


た「じゃあ花名ちゃんっ、また学校でっ!」
栄「またね、花名」
冠「また」

 当たり前みたいに、再開の約束を交わして、手を振る親友に。


 彼女もまた、笑顔で約束するのです。


 また会おうね。みんな。

 

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〈アニメ『スロウスタート』公式サイトより引用〉Ⓒ篤見惟唯子・芳文社/スロウスタート製作委員会

 

 

 

 

(今日はやめて、明日にしようか……)

 同じころ、予備校の前で立ちすくむのは、万年大会さん。
 栄依子さんに見立ててもらった服を着て、その手に持つのは「夏期講習受講案内」の申込書です。


 予備校の周りには、彼女が恐れる「キラキラした女子高生」たちがたくさんいます。
 みんな、友達と、楽しそうに、笑っています。


(いや、明日は雨な気がするから、明後日にしよう……!)

(きょ、今日は仏滅だった気が~……)

 弱気になって、踵を返しかける大会さん。

 

 

 けれど、
 立ち止まって。


 まずは、ここにふんばって。

 

(………………うん)

 

 前を見て。


 一歩を、踏み出しました。

 

 

 

 


 友達の力を借りて、自分で選んで買った服。

 それを着て、お母さんへ送る写真を撮ることにしました。
 志温さんに撮ってもらおうとお願いしましたが、「せっかくなんだし二人で撮りましょっ?」とのこと。
 それは分かるけど、また制服着らんでも。大会さんはともかく、アナタの制服姿は年齢的にまぁまぁですよ?

 いや、かわいいけども。

 


 カメラのタイマーをセットして、肩を並べた花名ちゃんと志温さん。

「花名ちゃん、高校生っぽくなったわね」
「えっ!?」

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〈アニメ『スロウスタート』公式サイトより引用〉Ⓒ篤見惟唯子・芳文社/スロウスタート製作委員会


「ちゃんと前向いておかないと」
「だって、志温ちゃんが変なこと言うからっ」
「あっ。サメのパジャマも送りましょう?」
「志温ちゃん~っ、あれはダメだよぉっ!」

 

 

 

 一ノ瀬花名、17歳。


 ちょっとだけ、ほんの少しだけ遠回りになった、彼女の幸せは。


 ゆっくりと、始まりました。

 

 

 

 

あとがき。

 うん、最終回も優しいお話だった……、けど。なんか、前回の方が最終回っぽかったですね。

 ……と、初見では感じたんですが。

 何度も観ていくうちに、「うん、確かにこれは、『スロウスタート』の最終回だ」という気がしてきました。
 クラスメイトがたくさん出て来て、花火も上がって、花名ちゃんが(遠回りして、よかったよ)と感じる展開は確かに最終回っぽかったですが……。

 うん、あの華やかさは、このアニメの最終回には相応しくないのでしょう。


 EDは、仲良し四人組の歌う『夕焼けと一緒に』という曲でした。
 この曲って五拍子? ズンタッタ、ズンタッ、みたいなリズムなんですけど、五拍子なんて初めて聞いたような……

 

 

 それと……、駅前で。

 栄依子さん、冠ちゃん、たまちゃんの三人が、カメラ目線で「またね」って手を振るあのシーン。


 まるで、視聴者に向けてのメッセージじゃないですか……ッ!!


 また会いたいなっ!

 ああ、寂しいなぁっ!!