『宇宙戦艦ティラミス』 第五話「DRIFTING WITHOUT SIDE DISHES」


 玩具のロボットで遊ぶ少年。

 本を読む兄と、料理をする母。

 そこは、家庭。

 


「スバル。今日はお父さん早く帰って来れるって」
「ほんと!?」

 そこは、温かな居場所。

 


「今夜は手巻き寿司だからね。玩具、片付けてらっしゃい」
「ねぇたまご、たまごあるっ?」
「もちろんあるわよ。スバルは卵、好きだものね。さ、お兄ちゃんも呼んできて。お手伝いしてね」
「うんっ!」

 

「お兄ちゃんっ、今日手巻き寿司だってー!」

 


 それは、温かく…………、失われた居場所。

 

 

 

DRIFTING WITHOUT SIDE DISHES

「…………夢か」

 薄暗いコックピット内で、スバル・イチノセはゆっくりと瞼を開けた。


「母さんの夢見るなんて、久しぶりかも……」

 無精髭の伸びた顎に、隈が浮かぶ虚ろな視線。
 背もたれから身を起こし、操縦桿を引くが、


「やっぱり動かないか……」

 最悪の事態を再び認める事しかできなかった。

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〈アニメ『宇宙戦艦ティラミス』公式サイトより引用 © 宮川サトシ 伊藤亰・新潮社/「宇宙戦艦ティラミス」製作委員会〉

 

 

 

 ティラミスとの通信が途絶えて数日。

 スバルは、宇宙を漂流していた…………。

 

 

 

(今回ばかりはヴォルガーさん、あなたの言う通りでした……。まさかデュランダルの核融合エンジンが止まるなんて……)

 宇宙を彷徨う原因となった、自身の過失。
 先輩の助言を聞かず、敵機を深追いしたせいで命の危険にさらされている事実は、スバルの精神を苛んでいた。

 

 しかし、

(いや。それももう、どうでもいい…………)

 憔悴した表情の中に、僅かな光を残す瞳。

 

 過去は振り返らず、現在を生き延びる事だけを考えて。

 スバル・イチノセは、今の自分に出来ることを模索する。

 

(問題は…………ッ、)

 

 

「コックピットにおかずが無いってことだッ!!」

 


 そこかい。

 もっと考えなきゃいけないコトあんじゃねぇかい。


 いやさ、確かにさ、「サ〇ウのごはん」的なのはいっぱいあるよ?
「宇宙(そら)でもふっくら」って書いてあるよ?
「ア〇ゾン」的な段ボールにしこたま詰め込まれてるよ? 一ヶ月くらい持ちそうだよ?


 いやぁ~、でもなぁおかずが一品もないなぁ~あいたたたぁぁ~~

 ってなるの?


 宇宙(そら)よりも遠い場所で?

 

 


「足柄で大量に箱買いしたこの非常食……。いいかげん何かご飯のおかずになるような物が欲しい……」

 なってるみたいです。
 この器の広さ、流石はエースパイロット。


(内部バッテリーも心もとない……。あと何回レンチンできるか……)

 美味しい食事を摂ることしか考えていない脳みそで、ほかほかごはんをレンジから取り出すスバル。

 そして、なんとなくの思い付きで。
 操縦レバーにご飯を盛って食べてみることにしました。

 

 あぁ~もうコレ精神的にやられてるヤツだ。宇宙の孤独に耐えられず無自覚にメンタルブレイクしちゃってるパターンだ。

 でないと「操縦桿にご飯」なんてエキセントリックかつ不味そうな食べ方を思いつくはず

 

(ちょっと美味しくなってるッ!?)


 なってんのッ!?

 

 


 そう、スバルが日々握りしめていた操縦桿は、いつの間にか手の塩気が土鍋のように染み込んでいたのです。

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〈アニメ『宇宙戦艦ティラミス』公式サイトより引用 © 宮川サトシ 伊藤亰・新潮社/「宇宙戦艦ティラミス」製作委員会〉


(だったら……、直接手に盛ったらもっと美味しいってことか……ッ!?)

 早速に実践するスバルです。
 開拓者です。


(手の甲のご飯うまッ!? こっちの方が断然うまいッ!! これならどんどんいけるぞぉッ!!)

 宇宙の片隅に漂う、残エネルギーも僅かなデュランダルのコックピットで、究極のぼっち飯を追求するスバルくん。

 

 

(身体の塩気に気付けたのは大きな収穫……。ならばっ……!)

 おもむろにパイロットスーツを脱ぎ、左腕に点々とご飯を盛りつけるスバルです。「代謝が活発な部位ほど塩気が増すはずだ」と考えたのですね。
 フロンティアです。


(ほら見ろッ!! 前腕筋と二頭筋はコンビニの塩むすびに匹敵するレベルだッ!!)

 新世界です。

 


(だが、肩ご飯はッ、口がッ、届かない……ッ!!)

 新たな世界を切り開くスバルくん、壁に突き当たりました。そこで、別のアイデアを試すことに。

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〈アニメ『宇宙戦艦ティラミス』公式サイトより引用 © 宮川サトシ 伊藤亰・新潮社/「宇宙戦艦ティラミス」製作委員会〉

 

 


 お次は、「ヘルメットで型を取ったご飯」です。

 これに、「ハンバーグっぽい形のご飯」「チャーハンっぽい形のご飯」「エビフライっぽい形のご飯」を添えればアラ不思議、最初の山が「オムライスっぽい形のご飯」に見えてきました。

 そう、お子様ランチの完成です。


(やっぱりな……! どこ食べても白米だ……


 そりゃそうだ。

 

 

 


 上半身裸になっての、お子様白米ランチ。

 状況は、究極のぼっち。


 ティラミスと通信できないほどに離れ、このままでは死あるのみ、そんな極限状態で、

(どんな食べ方したっていいじゃない……。コックピット飯なんだから……☆)

 全てを捨て去ったスバルでした。

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〈アニメ『宇宙戦艦ティラミス』公式サイトより引用 © 宮川サトシ 伊藤亰・新潮社/「宇宙戦艦ティラミス」製作委員会〉

 

 

 

 

 

 


 その時。

『やっと見つけたぞ、優等生』
「ヴォルガー中尉っ!?」

『ずいぶんと流されたみたいね?』
「リージュ中尉……!」

 


 奇蹟が、起きました。

 死を覚悟した青年のもとへ、救助がやって来たのです。これでまた、彼はティラミスへ帰還できます。

 ふたりは、救世主です。

 

『今からコックピットハッチを焼き切るぞ。離れてろ?』

 


 救せい、しゅ……、

 

「え?」


 己の惨状を思い出すスバル。

 そう、彼は今、一糸まとわぬ生まれたままの姿(+ヘルメット)の全身に白米を散りばめた、弩級変質者スタイルなのです。

 


「しまったッ、このままではまずいッ!!」


 ジジジジジジジジジジジジジジジジ!!!!


「ちょ! 待ってっ!」

 


「今はコックピット開けないでぇーーーーーーッ!!!!」

 

 

 


 残ったご飯はこのあとスバルが美味しくいただきました。

 

 

 

 

まとめ。

 いつも以上にぼっちなスバルくんでした。
 孤独な宇宙、舞い散る白米、これぞ究極のぼっち。

 ぼっちここに極まれり。


 しかし、あれからどうなったんだろう……。
 たぶん、極限状態で心を病んだと疑われて手厚いカウンセリングを受けることになったと想像しますが……。